闘うコラム大全集

  • 2014.10.02
  • 一般公開

沖縄知事選と歪められる辺野古移設問題

『週刊新潮』 2014年10月2日号

日本ルネッサンス 第624回


9月21日、台風のそれた沖縄は快晴だった。宜野湾市で開催された「沖縄21世紀ビジョンの早期実現を求める県民の会」に出席したのだが、11月16日の知事選挙に向けて、沖縄には早くも熱い風が吹いていた。


地元の琉球新報と沖縄タイムスは、普天間飛行場の辺野古への移設を選挙の争点にすべく、キャンペーンを続けている。しかし、両紙はどう見ても公正な視点に立っているとは思えない。なぜなら、辺野古移設への反対論を報じる一方で、辺野古への移設を含む米軍再編の全体像や、なぜ県外でなく辺野古でなければならないかという安全保障上の必要性について、殆ど報じないからである。


一例が21日の琉球新報だ。1面トップは、前日に辺野古の浜で開かれた「止めよう新基地建設!9・20県民大行動」の記事だった。


この紙面に、或る種の感慨を抱くのは、私だけではあるまい。1面の半分以上を占めるデモの写真には、こぶしを振り上げて叫ぶ人たちの姿が写っており、その中に赤地に白文字で「全学連」と大書した旗が翻っている。全学連は過去の遺物のように思えるが、沖縄ではまだ人々の期待を集め得る存在なのか。


全学連同様、本土ではおよそ誰も相手にしなくなった鳩山由紀夫元首相も集会に参加したと琉球新報が伝えていた。元首相は壇上には立たなかったが、「(市民は)構造的差別に対する強い怒りを持っていると感じた」「これまでは保守革新の亀裂を利用され、(政府に)うまくやられていた。次の選挙で辺野古はノーという県民の意思が分かるだろう」などと語ったと報じられた。


能天気な人だ。首相就任当時、「最低でも県外」「出来れば国外」に普天間飛行場を移すと言って沖縄県民の辺野古移設反対の機運を盛り上げ、最後にやはり辺野古しかなかったと言って頭を下げて仲井眞弘多知事に謝ったのは、一体どこの誰だったのか。こんな無責任な元首相ではあっても、辺野古移設に反対すれば、歓迎するのが琉球新報である。


中国の脅威が充満


琉球新報の報道には、過剰なものと、欠落しているものがある。前者は目の前5センチのところに広がる現状であり、後者は全体像である。全体像なしに近視眼的な視野しか提供しない主張は随分、矛盾する。


社会面に「怒る波浜に結集」「阻止へ決意新た」と大見出しを掲げ、「これ以上の基地はいらない」と報じているが、論理破綻ではないか。


普天間飛行場の辺野古への移設は、米軍再編の一端である。全体の計画を見ると、普天間飛行場約480ヘクタールの返還をはじめとして、嘉手納基地以南の米軍基地も含めて約1000ヘクタールが沖縄県民に返還される。北部訓練場の部分返還なども加えれば、5000ヘクタールの土地が最終的に沖縄県民に返却される見通しだ。現在、沖縄本島の面積の18・4%が米軍基地だが、返還によってその占有面積は大幅に下がる。


この全体像を頭に入れておけば、「これ以上の基地はいらない」と琉球新報が本気で主張する以上、普天間の辺野古移設を支持しない方がおかしいと気づくはずだ。米軍再編を加速させ、広大な土地を取り戻すことこそ、急ぐべきであろう。米軍は再編に伴い、家族も入れて約9000人の海兵隊員らをグアムなど他の場所に移す。基地も海兵隊も大幅に減らす道が、辺野古への移設である。


普天間飛行場の面積は480ヘクタールだが、辺野古に移れば面積は160ヘクタールに縮小される。このこと自体、基地縮小につながる。琉球新報が辺野古への移設を「新たな基地の建設」と非難するのはおかしいのではないか。


現在、普天間を発着する米軍機は民家の上空を飛ばざるを得ないが、辺野古では海上を飛ぶ。一番近い民家でも1キロ離れているため、騒音被害は随分と緩和される。何よりも普天間返還が進めば嘉手納以南の基地も返還される。辺野古移設を阻めば、一連の土地の返還は困難になり、普天間の現状も固定されかねない。


そう言えば、普天間などなくして県外や国外に移すのがよいという鳩山元首相のような主張が展開される。だが、琉球新報がその意見をもっともらしく報じ、それなりに大事に扱っているあの鳩山氏自身、迷走した揚げ句、やはり辺野古しかないとの結論に戻ったのではなかったか。


沖縄周辺の空にも海にも、中国の脅威が充満している。9月20日には3隻の中国公船が尖閣諸島沖の領海に侵入した。また同日現在で、尖閣諸島周辺海域には43日連続で中国の公船が張りついていた。中国は常に日本をうかがっているのである。


中国の南シナ海での蛮行は凄まじい。フィリピン領有の南沙諸島ジョンソン南礁がこの2年半の間に奪われ、埋め立てられ、軍事施設と滑走路を建設され、完全に中国軍の拠点とされつつあることを忘れてはならない。中国の侵略行為はこの瞬間も進行中で、南シナ海で起きることは東シナ海でも起こり得るのだ。


同じ日本人


そのための守りの体制を作るのに、日米両軍が有事の際、最も効率的に動けるよう、その敏速性を担保するために、普天間飛行場を沖縄県内に移すことは欠かせない。500キロ以上離れた九州に移しては、迅速な対応は出来かねるだろう。


もうひとつ、琉球新報の紙面に満ちているのが、沖縄は差別されているという主張だ。本土の人間の沖縄への思いは深い。大東亜戦争で戦場になり、多くの民間人が犠牲になった。本当に気の毒だったという思いは誰しも心の中に抱いている。戦後27年間も占領され続けたことも、本当に申し訳なかったと思っている。しかし、本土でも多くの人々が犠牲になった。広島、長崎に加えて、東京をはじめとする大空襲があった。言えば切りがない。多くの人は敗戦とはこういうものだと自ら言い聞かせ、語らず、耐えたのではないか。日本人として耐えるしかないという思いこそあれ、沖縄を差別する気持ちはないであろう。沖縄には、本土の人をヤマトンチューと呼び、沖縄の人をウチナンチューと呼んで、大和対琉球の対立を強調する論調がある。だが、本土の人も沖縄の人も同じ日本人であり日本国民だ。そのことを琉球新報は報じない。


琉球新報の社会面に91歳の北谷町の女性の憤りが報じられていた。「沖縄は基地が多過ぎる。なんでこんな小さな沖縄に、基地を置くのか」と、彼女は言う。


多過ぎる基地をいま、縮小しようとしているのだ。普天間の辺野古移設に伴って広大な基地の土地が沖縄県民に返還され、基地が大幅に縮小されることに、この女性は気づいてほしい。こうしたことを公平に伝えず、反基地、辺野古移設反対論を報じ続ける琉球新報は、事実を伝えないという意味で、新聞とは言い難い。

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