闘うコラム大全集

  • 2017.04.27
  • 一般公開

北朝鮮に通じるか、トランプの手法

『週刊新潮』 2017年4月27日号

日本ルネッサンス 第751回


4月6、7の両日、フロリダで開かれた米中首脳会談で、米中関係はどこまで進展したのか。そのことについてヒントになる事例が目についた。マイク・ペンス米副大統領のソウル訪問に合わせて、4月16日、ホワイトハウスが同行記者団に行ったブリーフィングである。

 

ホワイトハウス高官はアメリカが急いできた韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備及び運用開始の時期について、作業を急がないと語ったという。「まだいくつか必要な作業があり、韓国の新大統領が決まるまで流動的だ」「配備は次期大統領が決定すべきで、5月前半が適当だ」などと発言したと報じられた。

 

これまで、次期大統領が選ばれる前に、何としてでもTHAAD配備を完了し、運用を開始して、実績を作りたいとしてきたアメリカが、なぜいま、このように変化したのか。北朝鮮のミサイル発射や核実験の危険性は少しもなくなっていない。

 

中国問題に関して一目も二目も置かれている産経新聞外信部編集委員、矢板明夫氏は、北朝鮮問題で中国の協力を要請したアメリカが、中国の前向きな反応を得て、彼らに配慮した可能性を指摘する。アメリカは今も昔も中国は北朝鮮抑止に力を発揮できると考えている。他方、習近平氏はとりわけいま、アメリカの協力を必要とし、対立関係に陥ることを最大限回避している。合意の下地があるということだ。

 

習氏がどれだけアメリカとの対立を回避したかったかは、4月12日に行われた国連安全保障理事会で、シリアのサリンガス攻撃についての調査に関する決議案の採決を、中国が棄権したことにも見てとれる。ロシアは拒否権を行使してアサド大統領を守った。中国もこれまで6回、ロシアと共に拒否権を行使してきたが、今回は棄権にまわった。トランプ大統領は決議案採決の前日に電話会談で習氏に協力を依頼したと語っている。中国はロシアと距離をおき、アメリカに接近したのだ。


20世紀の個人崇拝


「過去6回もシリアのために拒否権を行使して、アメリカに反対した中国が、今回、アメリカに従ったことが明確になりました」と矢板氏。

 

氏はさらに説明した。


「米中首脳会談を、どうしても成功させなければならない立場に、習氏はありました。8月には最も重要な北戴河会議が、秋には党大会があります。それが終わるまで、アメリカには問題を起こしてほしくない。そのためにはトランプ氏とよい関係を構築しなければならない。これが習氏が訪米した背景です」

 

習氏はいま党組織改革を目論んでおり、8月に河北省の避暑地、北戴河で開かれる中国共産党長老たちの会議で了承を得なければならない。習氏は昨年秋、自身を毛沢東に匹敵する党の「核心」として位置づけた。今年の組織改革では、政治局常務委員会を無力化し、党主席、つまり習氏1人に権力を集中させる「中央委員会主席」という役職を新設すると報じられている。

 

21世紀の中国を20世紀の個人崇拝の時代に引き戻すと懸念されている組織改革には、まず長老たちの間に強い反対の声があると言われている。長老の反対論を抑え、党大会の了承を得るために、習氏は全ての問題を巧く取り仕切らなければならない状況にある。

 

韓国へのTHAAD配備には、中国全体がとりわけ敏感になっている。国をあげて韓国製品の不買運動を展開している最中である。旅行者も制限して韓国を締め上げ、配備を止めさせようとしているのが中国だ。

 

そうした習氏の思惑や中国の事情をトランプ氏が取り引きの材料に使ったのか。

 

習氏が目指した訪米の目的が、党大会まで、アメリカに大人しくしていてもらうことだったのであれば、THAAD配備の先延ばしは明確な成果であろう。しかし、夏、或いは秋まで延ばすことは、北朝鮮のミサイル迎撃という観点からは考えにくい。となると、アメリカ側は中国の北朝鮮対策を見ながら、配備のタイミングを調整する可能性もある。

 

このように推測する理由に、トランプ氏の対中国発言が首脳会談後、大いに和らいでいることがある。4月13日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)紙は氏の単独インタビューに基づく複数の記事とコラムを掲載した。「トランプと習、緊張転じて合性よし」というコラムにはトランプ氏のこんな発言がある。


「我々の合性は抜群だ。私は彼がとても好きだ。彼の妻もすばらしい」

 

トランプ氏はさらに語っている。


「冒頭の初顔合わせは10分か15分の予定だった。それが、3時間も話し込んだ」「翌日、また10分のところが2時間も会話した。本当に気が合うんだ」


北朝鮮への支援

 

中国や習氏に対するこの熱く高い評価は、暫く前の発言とは正反対だ。WSJは、トランプ氏が次々に政策を反転させていると指摘したが、プーチン氏への評価は負の方向に大逆転させた。

 

70分間のインタビューでトランプ氏は、メディアはプーチン大統領との関係を書きたてるが「私はプーチンのことなど知らない」と素っ気なく繰り返している。

 

トランプ氏はかつて為替操作国だとなじった中国に、もはやそのようなレッテルは貼らないと変化した。アメリカの輸出入銀行は不要だと切り捨てていたのを、中小企業支援のためにこれからも支えるとした。NATOは無用だと悪口雑言だったのが、いまは非常に重要な同盟だと評価する。なぜ変わるのかと質問されて、トランプ氏は答えた。


「全ての事案の重要性はとてつもなく大きく、全ての決定がとてつもなく大きい。わかってるだろ、生か死かの問題なんだ。うまくディールできるかどうかの話ではないんだ」

 

トランプ氏は、中国は簡単に北朝鮮問題を解決できると考えていたが、習氏の説明に「最初の10分間で、それほど容易なことではないとわかった」と語っている。それでも恐らく中国は約束したのではないか。トランプ氏は中国が直ちに北朝鮮をコントロールできなくとも、暫く待つ姿勢を示しているのではないか。もしそうならうまく行かないと、矢板氏は見る。


「中朝関係は制裁では動かない。経済的に締め上げてもダメ。お金を与えれば別ですが」

 

中国はこのことをよく知っている。アメリカが要求するように北朝鮮への支援を止めれば、そこにロシアが介入して、北朝鮮をロシア陣営に引き込む。従って中国は支援を止められない。北朝鮮抑止を中国に任せること自体、何度も失敗してきた。そのことをトランプ政権は、いまから学ぼうとしているのか。

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