闘うコラム大全集

  • 2019.04.04
  • 一般公開

対米劣勢の中、EU分断を進める中国

『週刊新潮』 2019年4月4日号

日本ルネッサンス 第846回


米中の戦いが熾烈さを増している。


中国の習近平国家主席は米中貿易戦争で追い詰められている最中の3月21日、イタリア、モナコ、フランス3か国の歴訪に出た。


22、23の両日、習氏は「一帯一路推進」の旗を掲げて最初の訪問国イタリアを訪れた。中国の狙いは欧州連合(EU)の分断である。その先で、米国の世界戦略を支える柱のひとつである米欧関係にヒビを入れることだ。


習氏のイタリア訪問は大袈裟でなく、今後の国際政治の力学を左右する要素として国際社会の注目を浴びた。イタリアが中国に取り込まれるのか、それとも踏みとどまるのかは、EUが分断されるか否かの分岐点になりかねないからだ。


マッタレッラ大統領、及びコンテ首相は、しかし、一帯一路政策を中国と共に推進すると合意を交わした。先進7か国(G7)の中で一帯一路協力文書に署名したのはイタリアが初めてだ。シンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏が喝破した。


「中国はEU分断という目標の第一関門を突破したと見てよいでしょう。彼らはイタリアがEUの輪の一番弱い国だと見て取ったと思います。現在イタリア経済は非常に悪化しており、現政権は『五つ星運動』と『同盟』の、反EU、反移民の色彩を濃くする二つの大衆迎合政党による連立政権です。どちらもドイツやフランスなどEUを主導する国々との関係はよくありません。そこに中国は目をつけたのです」


中国との合意は、イタリア国内で強い反対と批判を受けた。連立政権の一方の柱である「同盟」の党首、サルビーニ副首相は習主席との会談を拒否し、公式晩餐会も欠席した。主要メディアは合意は「トロイの木馬」に他ならず、イタリアが中国の影響下により深く取り込まれ、中国が欧州諸国に産業スパイを送り込み、軍事偵察を強化するのに利用されると警告した。


悪しき手法への抗議


これからどのように中国が欧州に浸透していくか、断定はできないが、イタリアとの間で起きることは想像できる。中国はEU加盟28か国中、すでにギリシャ、ポルトガルなど13か国と一帯一路推進の覚書を締結済みだが、その手法は以下の特徴を備えている。相手国の経済の低迷につけ込み、巨額の投融資を行う。大型投資を消化するにはギリシャのピレウス港の例に見られるように、港湾や道路などのインフラ整備が一番よい。イタリアには地中海有数の物流ルートの要として北部のトリエステ、ジェノバなどがあるが、それら港湾を中国は自身の拠点に作りかえていくだろう。田久保氏の指摘だ。


「これらの地で中国が港湾建設計画に参入し、大型軍艦が寄港可能な仕様にすれば、地中海での中国の軍事的プレゼンスは非常に大きくなります。欧州全体の安全保障環境に測りしれない影響を及ぼします。欧州諸国は中国の脅威にすでに気づいていて、習氏がローマで首脳会談をした前日、EU28か国がブリュッセルで首脳会議を開きました。EU全体が中国問題について検討するのは天安門事件以来でしょう」


EU首脳会議では「対中国・10項目の行動計画」が承認され、中国のお家芸と化した悪しき手法への抗議と警戒が列挙された。強制的技術移転や、中国国内企業への国家補助によってEU市場が被むる悪影響の排除、EU政府調達への外国企業の参加要件の透明性や公正さの確立、EU加盟国への外国による直接投資の資格審査の厳格化、第5世代移動通信システム(5G)に関するEU共通の安全策の確立などが明記されたのである。


いずれも中国に対して現状を改め、公正な国になるべきだと求める内容だ。だが、そんなことは中国の関心事ではないだろう。彼らは専ら、力のバランスを自国有利に変えていく戦略に集中しているかのようだ。そのために、経済、軍事、偽りの微笑など持てる全能力を活用する。


たとえば李克強首相は4月9日にブリュッセルを訪れ、EU首脳と会談した後クロアチアに向かう。同国で中国・中東欧諸国首脳会議(「16+1」)に臨むが、テーマはズバリ「一帯一路」だ。


「16+1」は中国が呼びかけて2012年に誕生し、旧東欧・中欧諸国を中心に11のEU加盟国が参加済みだ。EU非加盟は5か国にすぎず、中国の策に旧東欧・中欧諸国が取り込まれ、EU分断が始まっているのが見て取れる。


李氏は、習氏がEUの一角に切り込んだ亀裂を、さらに拡大すべくあらん限りの誘引策を駆使するだろう。そうでなくとも、すでに一帯一路の推進で覚書を交わした国は今回のイタリアの他にギリシャ、ポルトガル、ポーランド、ハンガリーなど13か国もある。EU分断は生々しく迫っているのだ。


異形の価値観


米国の危機感は昨年10月4日の徹頭徹尾、中国非難だったマイク・ペンス副大統領の演説に凝縮されている。中国を世界貿易機関(WTO)に招き入れたのは米国だが、中国共産党は自由で公正な競争とは相容れない、中国は米国の国内政治に介入している、中国の所業はロシアよりもずっとタチが悪い、中国はジョージ・オーウェルの社会を目指している、などと延々続いた。EU首脳会議の対中国・10項目の行動計画は、米国のこの危機感を半年遅れでEUが共有し始めたことを意味する。


世界が中国に筋の通った対応を貫けるか否かは米国にかかっている。米国が政治的意志を堅固に守れるか否かで決まる。その意味でトランプ大統領を巡る米国内の状況が重い意味を持つ。


3月24日、米司法長官のウィリアム・バー氏が、トランプ氏に関して「氏の選挙陣営とロシア政府との共謀や協力があったとは立証できていない」、「トランプ氏の司法妨害疑惑も証拠不十分」と結論づけた。


民主党は納得しないであろうが、トランプ氏の立場は強化されたといえる。さらに、意外なことに、トランプ氏はヒスパニック系の有権者に支持を広げているとの調査もある。昨年12月時点で31%だった支持率が、今年1月17日の調査では50%に上昇したというのだ。これは大統領選挙に非常に有利な条件となる。


但し、右の調査の信憑性は疑問で、支持率は30%だという解説もある。確かなのはトランプ氏の支持基盤が崩れていないことだ。政治基盤が強化されたトランプ氏、さらには共和党も中国との妥協に走る必要性がなくなるだろう。それは中国の異形の価値観と戦い続けることが可能になるということでもある。習氏も必死で、欧州の切り崩し、米欧分断を手始めに米国の衰退を加速させようとするだろう。米中の戦いの激しさを肝に銘じて日本の命運を守るという意識を持たなければならない。

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