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闘うコラム大全集
- 2019.06.15
- 一般公開
国際政治は理想よりも力で動く ウクライナの二の舞を演じてはならない
『週刊ダイヤモンド』 2019年6月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1283
「現在の日本はロシアに侵略されてクリミア半島を奪われる前のウクライナとそっくりです」
ウクライナから来た留学生、ナザレンコ・アンドリー氏(24)がインターネットの「言論テレビ」で語った。来日5年、共愛学園前橋国際大学在学中で、「雲散霧消」など四字熟語も自在に使いこなす。
どのように日本とウクライナが似ているのか、ナザレンコ氏の解説だ。
「自分たちが武力を持たなければ周辺国も平和的に接してくれると思い込むことです。ウクライナも非核三原則を作って、保有していた核すべてをロシアに渡しました。軍隊も100万人から20万人に減らしました。私の両親も含めてウクライナ人は性善説を信じたのです」
ここで少々説明が必要だろう。かつて旧ソ連の一部だったウクライナは、1991年のソ連解体で独立した。当時のウクライナはソ連のいわば武器庫で、核兵器、ミサイルをはじめ多くの武器が保有されていた。
これらの武器をすべてロシアに引き渡すべきだと、米英露3カ国が要求した。ただし武力放棄後のウクライナの安全は米英露3カ国が保障するとも誓約した。同提案にウクライナは同意し、ブダペスト覚書を交わした。後に中仏も同様の内容の覚書をウクライナと個別に交わしたことから、国連安全保障理事会常任理事国すべてがウクライナの安全を担保する形が出来上がった。これが94年だった。
ところが、20年後、ロシアは突然ウクライナからクリミア半島を奪った。現在もロシアと国境を接するウクライナ東部にはロシア軍が常駐している。恐らく何年か時間をかけて、ロシアのプーチン大統領はウクライナの領土をより多く、取り戻そうとするだろう。
そこで疑問は、(1)なぜ5大国の約束は機能しなかったのか、(2)ウクライナ人はなぜ非核三原則に見られる「平和論」や大国の約束に頼ったのか、だ。
(1)の答えは、ブダペスト覚書の第4条にある。そこには、ウクライナがロシアから侵略された場合、米英は「国連安全保障理事会において」ウクライナを支援すると書かれている。しかし安保理においてロシアは拒否権を行使できるために、第4条は最初から機能しない空しい誓約だった。米英は別に約束を破ったわけではないのだ。
(2)についてナザレンコ氏は次の様に述べた。
「非核三原則ですが、ウクライナ北部のチェルノブイリで86年、世界一恐ろしい原発事故が起きました。国民は核に強い恐怖感を覚えました。しかもソ連の技術は本当に頼りない。いつ何が爆発するかわからない。強い恐怖と絶望で領土内に核は置きたくないと大多数の国民が考えた。それが非核三原則の背景です。来日して、福島第一原子力発電所の事故について考え、私たちは似ていると思いました」
ウクライナは歴史的にいつも侵略されてきた。古くはモンゴル帝国に占領された。ポーランド、リトアニア、ロシア、トルコ、第二次世界大戦時にはドイツに占領された。武力に屈服し、被占領国の歴史を生きたウクライナがなぜ、武力を捨てたのか。
「楽観的すぎた。性善説なのです。時代は21世紀だ。冷戦は終わった。争いはもう起きない。米英露の世界最強国が守ってくれる。ならば自国軍は不要だ。軍を5分の1に縮小して、福祉に回す方がよいと考えたのです。それに90年代はソ連解体でウクライナ人も経済のことばかり考え、国防に心を致さなかったと思います」
尖閣諸島周辺には本稿執筆時点で連続55日間、中国の大型武装艦四隻が侵入を続けている。国防を置き去りにしてウクライナの二の舞を演じてはならない。国際政治は理想よりも力で動くことを認識し、憲法改正を国民の課題として考えるときであろう。
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