闘うコラム大全集

  • 2022.06.30
  • 一般公開

単独親権維持で法務省リークか

『週刊新潮』  2022年6月30日号

日本ルネッサンス 第1005回


「毎日新聞」6月20日朝刊1面トップの記事はどう読んでもおかしい。特ダネ扱いの同記事は、事案についての全体像を欠くために状況が歪曲されている。なぜこんな記事が生まれるのか。考えられる理由は大別して二つ、➀リークされた情報を鵜呑みにした、➁確信犯的に報道した。


➀の場合、この記者は自身が報じた事案の問題点を把握していなかった可能性がある。➁の場合、物事の全体像を示すことでできるだけ正しい情報を読者に伝えるという、報道記者としての責任を果たしていないことになる。いずれにしても毎日新聞の報道の質が問われる。毎日が報じたのは離婚に伴う子供の養育に関する法務省の法改正の内容である。


現在、日本では3組に1組の夫婦が離婚する。わが国の民法は離婚後、片方の親だけに親権を認める「単独親権制」を採用しているために、離婚後、子供は片方の親に引き取られる。他方、欧米先進諸国では離婚後も両方の親が協力して子供を養育する「共同親権制」が主流である。


単独親権制の下、わが国では、離婚後、片方の親による子供の独占が当然視され、もう一方の親は子供と引き離され、子供に会えないという悲劇に突き落とされる。子供を独占するのは圧倒的に母親が多く、シングルマザーには少なからぬ保護及び支援策が講じられている。


先々週の当欄でも報じたが、日本では父親が不在のときに、母親が子供を連れて家を出、DV(家庭内暴力)などを理由に離婚し、父親から子供を取り上げるケースが続出している。子供の連れ去りとその後の単独親権などを理由に、国際社会は「日本は子供拉致国家」だと非難する。


子供は本来、両親の愛を受けて大切に育てられるべき存在であり、単独親権制に基づいて片方の親から引き離されること自体が、本当におかしく、異常なのだ。法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会(以下法制審)はこうした問題点を踏まえて法改正を準備してきた。8月にも中間試案を出す予定で、前述したように毎日はその内容を報じたのだ。


家族をバラバラに解体


ここで重要な論点は一点に絞られる。わが国の家族法制を、共同親権を基本軸にして整備し直せるか否かである。世界中の非難を浴びている日本の特異な単独親権制ゆえに子供と生き別れになった多くの父親たち、そして少数とはいえ、おなかを痛めて生んだわが子と引き裂かれた母親たちが悲痛な訴えを寄せ、最後の望みとして縋るのが法務省だ。だが、実態は、単独親権維持にこだわってきたのは他ならぬ法制審なのだ。


本来、国家・社会の基盤である家族を幸せな形で守る手立てを法律で整えるのが法務省のはずだ。しかし現実はそうなっていない。逆に法制審のこれまでの議論と彼らが目指す法改正は家族をバラバラに解体するものだ。世界の国々と正反対の政策をさらに強め、貫こうとしている。


今回の家族法制改正は、すでに指摘されている欠陥を改める方向でなされなければならない。従って法改正の中間試案では共同親権をどこまで明確に盛り込んでいるか、単独親権をどこまできちんと排除しているかが最大のポイントである。


その点を毎日はどう伝えたか。見出しは「離婚後の共同親権提案へ」である。記事本文では「『離婚後の共同親権』の導入を提案する方針を固めた」と報じた。これを読むと、単独親権にこだわっていた法制審が、遂に子供中心の法制度、国際社会の常識である共同親権の大切さに目醒めたのかと思ってしまう。


しかし、さらに読むと、「同省(法務省)が提案する内容は、父母が話し合いや裁判所の判断で共同親権を選択できるようにするもの」で、具体的には「(子の)進路や病気の治療方針を父母双方が共同親権に基づき」決定する、とある。


法制審の言う共同親権は、どの学校に子を入れるのか、大きな病気をした場合、治療方針をどうするのかという具合に、非常に狭い範囲にしか及ばないということだ。


共同親権の基本は、両方の親が協力して、各々が互いに日常的に子供と接する機会を設けることであろう。双方の親が子と一緒に時間をすごし、可愛がり、教え、励まし、叱り、相談に乗り、指導する。親としての愛情をあらゆる形で注ぐ機会を父母双方に与えるのが共同親権だ。子供にとっては両親の愛を体一杯、心一杯に受ける権利である。それを進学先の決定や罹患時の治療方針決定などに限定するのでは、とても共同親権とは言えない。共同親権という言葉だけ掲げて、国際社会や真の共同親権を望む国内世論を欺こうとするものではないか。


自民党の提言こそ正論


毎日はそうしたことを全く指摘せず、こう書くのだ。法制審の中間試案には「共同親権を原則とする案と、単独親権を原則とする案が示される模様」と。


法制審の単独親権へのこだわりは、DVや激しいいがみ合いをする夫婦もいるとして、「家族を巡る価値観は多様であることを踏まえ、単独親権のみの現行制度を維持する案も議論される」という件(くだ)りにも表れている。


法制審の考え方に危惧を抱いた自民党はプロジェクト・チーム(PT)を作り、家族を家族として守れる国を目指して法制審とは根本的に異なる提言をまとめた。PTを代表して山田美樹、熊田裕通、三谷英弘、柴山昌彦、谷川とむの五氏が6月21日、提言を古川禎久法相に手渡した。


自民党案のポイントは、➀ハーグ条約及び児童の権利に関する条約との整合性を確保するために単独親権の現行国内法を再検討する、➁離婚後も父母双方が子の養育に責任を負うべきであるから、共同親権制度を導入する――に尽きる。


また、多くの父親(それに少数の母親)が子供と引き裂かれ、生き別れになっているこれまでの事例については、親権の回復を認める救済措置をとるべきだとしている。


共同親権を基本にした自民党の提言こそ正論である。折しも世の中は参議院議員選挙に突入し、政治家の注意は選挙に向きがちだ。まるでその隙を狙ったかのごとく法制審の案をリークし、記事にさせ、法制審の案が共同親権を視野に入れた真っ当なものであるかのような印象を創ろうとしたのではないか。


リークしたのは法制審の側だと見て間違いないだろう。彼らが自民党の共同親権路線を警戒しているのは明らかだ。選挙が終わり、新たな人事が行われ政界がざわめいているうちに、法制審は、政治家に気づかれないように単独親権制を基盤にした法改正を行おうとしているのであろう。自民党案を軸に、日本の家族を守っていくことが大事であろう。

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