元気になるメルマガ

  • 2013.01.13
  • 一般公開

「南方週末」事件:習近平政権もたどる言論弾圧の同じ道

クリストフ記者は習近平を改革派と称えた
 米紙「ニューヨーク・タイムズ」の記者、ニコラス・クリストフ氏が1月7日の「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙に、中国共産党総書記、習近平氏について興味深い記事を書いていました。

 クリストフ氏は習氏を改革者と位置づけるのですが、その理由が振るっています。習氏には改革者の「遺伝子」が伝わっているというのです。それをクリストフ氏は以下のように説明しています。

 習氏の父親、習仲勲は中国経済改革の先導者であり、民主化を求めて天安門で抗議した人々への大量虐殺を公に非難した、習氏はまた中国指導者層の中でも子供を(大学院ではなく)学部のときから米国に留学させた最初の1人である、彼の娘は現在ハーバード大学3年生、両親の意向に沿って英語を習得中で、米国の教育に憧れている、というものです。

 中国人を妻にもつクリストフ氏の親中姿勢が明らかですが、そのクリストフ氏でさえ習体制がうまくいくための前提条件としてあげたのは中国共産党がネットや情報の規制をやめることでした。

 中国広東省で起きた週刊誌『南方週末』の社説差し替え騒動を、クリストフ氏は興味深い事例として掲げています。この事例は習近平体制の下で言論の自由や政治思想の自由は許されるのか、制限され続けるのかを示すテストケースのひとつとなりますが、クリストフ氏は、習政権はよい形で処理すると見ているのです。


中国共産党は憲法を守る気など全くない
そこで南方週末事件の顚末を、各紙の報道をまとめる形で振り返ってみましょう。

 まず、1月3日付の南方週末の社説が中国共産党省宣伝部によって一方的に差し替えられました。元々の社説は「憲法に基づく政治を実現し、自由・民権擁護の国家を建設する夢」を提唱する内容でした。

 ちなみに中国の憲法は素晴らしい内容を多く含んでいます。民主主義の尊重は無論、人間の自由を重んじ、弱者を守り、環境に配慮するなどとも書いています。環境保護などの規定がないわが国憲法に較べてもはるかに進んだ内容なのです。

 しかし中国共産党に憲法を守る気など、全くないと断言してよいでしょう。それは共産党支配下の中国でどれほどの人権弾圧や環境破壊が行われてきたか、それらがいまもどれだけ生々しく続いているかを見れば明らかです。南方週末はその点を突いて、立派な憲法があるのであるから、それをきちんと守ってよい国造りをしましょうと提言したわけです。

 この社説を広東省の共産党宣伝部が問題視して、「中華民族の偉大な復興を実現する夢」を提唱する内容へと書き替えました。
「中華民族の復興」は習近平氏お得意の表現で、就任以来さまざまな機会に度々強調してきた言葉です。

 習氏はまた昨年の18回中国共産党大会で新指導者に選ばれた直後から「党」の絶対性を強調してきました。共産党はイデオロギー工作の指導権と主導権をしっかり握るべきであり、中国の国民は幅広い愛国統一戦線を確立しなければならないという考えです。

 こうした考え方を新指導者が持っていることを十分に考慮した党宣伝部が、党の指導よりも憲法の精神が大切だと説く社説は問題だとして差し替えを強行したのは、自然な成り行きでしょう。

 4日、社説が差し替えられたことが公になりましたが、その日、中国外務省の華春瑩副報道局長は「中国にいわゆる検閲制度は存在せず、報道の自由は保障されている」と会見で断言しました。中国人って面白いですね。黒を白と言いくるめるのになんのためらいも見せないのです。


「南方週末」への言論弾圧
 事件は各方面に波紋を広げました。6日夜、南方週末の上層部は中国版ツイッターの公式アカウントで、社説差し替えで介入したとされた庹震(トゥオジェン)広東省党委員会宣伝部長には責任はないという声明を発表しました。

 記者らは当然、強く反発しました。彼らは抗議のストライキに入ることを決定、100人近くが署名しました。

 同時進行で幾つもの波紋がおきました。

 南方週末編集部は党宣伝部による介入は書き替えの指示や記事の不掲載など、今回の件を除いて、昨年1年間だけで1,034件に上ったと発表しました。

 国内の弁護士グループは、編集部関係者が不利な扱いを受けた場合、無償で弁護を引き受けると発表しました。
 北京大学や清華大学など一流大学の教授や助教授ら27名も、社説差し替えを行った庹震部長の罷免を求める書簡を発表しました。

 翌7日、中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」が「公然と対抗すれば必ず敗者になる」という社説を掲載して、恫喝する態度に出ました。

 一連の情報は世界を駆け巡り、8日、米国務省は「メディアへの検閲は、情報に基づく近代的な経済、社会を建設するとの中国自身の目標と相容れない」と批判しました。

 9日、南方週末の姉妹紙、北京の「新京報」の社長が環球時報の威圧的な社説の転載を命じられて抗議の辞任を表明しました。

 ところが、同日、南方週末幹部はストライキを収拾し、新年第2号となる10日付を発表すると明らかにしたのです。広東省トップの共産党委員会書記の胡春華氏が、介入した庹震宣伝部長の更迭を条件にスト収拾を要請したとの情報も伝えられました。共産党宣伝部の意向にこれ以上逆らえば、南方週末は廃刊にされると恫喝されて妥協したとの情報も伝えられました。

 現時点では南方週末の上層部、編集部、さらに党宣伝部との間でどのような話し合いが行われたのかの詳しい情報はありません。しかし、私たちはもうひとつの事例を見ることで、南方週末が「平常」の出版に戻ったことが必ずしも、習政権側が譲り、メディア側に自由が保障されたわけではないことを知ることができます。

 それは南方週末事件に先行した雑誌『炎黄春秋』が党宣伝部によって廃刊に追い込まれた事件を見れば明らかです。廃刊の理由を宣伝部は「手続き上の不備」と発表しましたが、炎黄春秋側は事実無根だと抗議しています。

 廃刊の真の理由は同誌1月号の巻頭言で「憲法こそ政治改革の鍵」として書かれた巻頭論文を、共産党を憲法の上に位置づけているような習体制下で、宣伝部が見逃すはずはありません。

 中国にはこれまでも廃刊や停刊に追い込まれ、或いは追い込まれそうになって復刊したメディアは複数あります。しかし復刊後の編集内容は悉く、当局の意に沿う内容になったといってよいでしょう。南方週末も同じ道を辿るのではないかと思います。

 つまり、習体制の下では言論、表現の自由は保障されず、情報の規制は続くと考えざるを得ません。この点、私はクリストフ氏とは全く異なる見方をしています。真の情報を国民に伝えることを拒み続ける政権の未来はないと断言してよいでしょう。


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