元気になるメルマガ

  • 2013.03.13
  • 一般公開

3・11から2年、反省を踏まえて新たな出発を

 東日本大震災から丸2年が過ぎました。あのとき私たちは、日本人は
自己の利益よりも他者への思い遣りを優先し、究極の困難の中で助け合
う、礼儀正しく忍耐強く、真の勇気を持つ人々であると、国際社会から
高い評価を受けました。いま私たちは、その賞讃に値する国民であるの
か、静かに胸に手をあてて考えなければならないと思います。

 震災後、決して十分ではありませんが、岩手、宮城、福島3県の各地
に足を運んできました。その度に、お会いする方々の懸命な努力、もう
一度自分の人生を立て直し、故郷の再建を進めたいと前向きに前向きに
自分を励ましている姿には、本当に心を打たれます。けれど、個人個人
は頑張っていても、社会全体でいえば足りないのです。結果、3県とも
に復旧・復興は遅々として進んでいません。

 主な原因のひとつが、3県平均で、全体の3分の1にとどまる瓦礫処
理です。全国約1800の自治体の内、瓦礫を引き受けたのはわずか7
5にとどまっています。

 圧倒的多くの自治体が協力してくれていません。中には焼却能力がな
いなどの事情で仕方がないケースもあるでしょう。けれど、協力しない
主な理由は根拠のない放射能への恐れです。それは本当に愚かなことな
のです。他県に処理を依頼するのは岩手と宮城の瓦礫だけです。放射能
汚染が心配される福島の瓦礫は福島県内で処理され、他県に運び出され
ることはありません。

 岩手、宮城の瓦礫にしても、搬出される場合は二重三重に放射能検査
をして安全を確認してから運び出します。安全な瓦礫しか他県には頼ん
でいないのに、引き受ける自治体は少ないのです。結果、まだ、3分の
2の瓦礫がうずたかく積み上げられていて、復興を妨げています。

 私が中学から高校時代を過ごした故郷、新潟県では、泉田裕彦知事が
、運び込まれた瓦礫を県内で処理したことを「犯罪行為」と非難しまし
た。わが故郷のことながら恥ずかしく思いました。新潟も、地震のとき
全国の人々に助けていただきました。今度はしっかり助ける側なのです
。自治体の長たる人物は、もっと学び、もっと調べて物事の処理をして
ほしいと思いました。たとえ住民が反対しても説得して、瓦礫を受け入
れるくらいの指導力を発揮してほしいとも思いました。

 放射能への恐れは瓦礫処理を遅らせているのみならず3県、とりわけ
福島県産農産物への風評被害となって復興を妨げています。

 放射能への無闇な恐れは被災地地元の人々にも共通しているのではな
いでしょうか。国際放射線防護委員会(ICRP)の基準では緊急事態
から回復に向かう状況下での放射線許容量は、年間20~1ミリシーベ
ルト(SV)です。にも拘わらず、福島では、恰も1ミリSVが安全基
準値であるかのように受けとめられています。1ミリSVを超える所に
は戻らないというような人々が少なからずいます。

 けれど、日本人は平均で年間1.5ミリSVの放射能を自然界から浴
びています。健康診断などのレントゲンやその他医療によって、平均で
年間4ミリSVを浴びています。塩分の摂りすぎ、野菜不足、受動喫煙
はなんと100~200ミリSVに相当する害です。そのことを考えれ
ば、1ミリSVに拘るのは、敢えていいます、愚かです。1ミリSVの
壁ゆえに、故郷への帰還が進まず故郷再建もままならないこの悪循環こ
そ断ち切らなければなりません。

人々はなぜ郷土に戻らないか

 人々が戻らないもうひとつの理由が避難生活を支える援助です。被災
者支援が重要なのは言うまでもありません。国も自治体も、そして個人
も、出来るだけの支援を続けていかなければならないと思います。しか
しいま、問うべきなのは、現在進行中の支援は本当に個々人の生活再建
を促し、故郷再生を後押しするものなのかということです。

 被災地に行ってみますと、多くの矛盾に気づきます。たとえば、故郷
に戻って事業を再開したいとき、働き手が不足して事業再開ができない
というケースが幾例もあります。従業員や社員が元の会社などに戻らな
いのにはさまざまな理由がありますが、そのひとつが、戻って働くより
はるかに多額の援助が避難生活をしていれば支給され続けるということ
があります。借り上げ住宅などが提供され、震災前に得ていた給与が保
証されるのに加えて、1人月額10万円が支払われます。家を失い家族
を失った人々にとっては十分な援助とはいえないと思いますが、それで
も震災前より多くの収入が入ってきます。故郷に戻って働けば、元の給
料だけになります。

 こうしたことで、戻って働くより、避難生活を続ける道を選ぶ人が多
くでてきてしまったのです。結果として、あらゆる意味でよき働き者だ
った東北の人々が怠惰へと流れつつあるのが現実です。彼らを忍耐強さ
と自主独立の精神から引き剥し他力依存へと誘導したのが政府の安易な
迎合策です。

 政府の施策、とりわけこれまでの民主党の施策は復興に関しておよそ
全ての面で間違っていたと言わざるを得ません。そのことを象徴するか
のように、いま東北の形が変わりつつあります。美しい海の恵みに祝福
されてきた3県各地に、数メートルから10数メートルの巨大なコンク
リートの防潮堤が築かれつつあるのです。1000年に一度の巨大地震
と巨大津波から地域を守るためだそうです。

 よしんば無機質な髙壁が幾ばくかの安心感を与えるとしても、人々は
朝な夕なに眺め暮した海から断絶されます。東北の地から日本人の感性
、風土、文化の悉くが失われていくでしょう。

 自然との関係で絶対的に安心なものなど存在しません。古来日本人は
そのことを知っており、自然を畏怖しつつその中に抱かれて生きてきま
した。いま、目につくのは、畏怖を超えた無闇な恐れです。政府はこう
した状況でこそ、恐れすぎることや愚かな思い込みが敗北を導くことを
国民に語り、理性と科学を反映した新しい再建策を示し、人々の心に困
難に立ち向かう勇気を呼び起こさなければならないと思います。

被災地に育つ希望の芽

 震災の被害の深さに心は痛みますが、現地では沢山の希望の芽も育っ
ていることに大いに勇気づけられています。そのひとつが、各地で行わ
れている桜の植樹です。宮城県三陸町では社団法人LOOM NIPP
ON代表の加賀美由加里さんたちが三陸町を桜の名所にしたいと、去年
から植樹を始めました。すでに去年と今年で数百本の若木が植えられま
した。

 福島県ではNPO法人ハッピーロードネットの西本由美子さんたちが
、今年、これまた東北を日本一の桜の名所にしたいと海沿いの道路脇に
幾十㌔にもわたって植樹を始めました。言論テレビの中で少しおはなし
しましたが、3月3日の植樹祭には私も参加してきました。

 3月3日の植樹は福島県楢葉町で行われたのですが、実はそこにはま
だ住民は戻っていません。楢葉町の放射能レベルは、山や野原など除染
が必要な高い所があります。反対に、十分に低くて住んでも全く問題の
ない安全な所もあります。郡山などより低い地域はいくらでもあります
。しかし、立ち入りをしても安全な区域とそうでない区域の仕分けがで
きておらず、結果として住民が戻れない状態です。加えて水道も電気も
まだ戻っていませんから、立ち入りは昼間に限られています。

 そこでの植樹祭に、楢葉中学から4人の生徒が、そして広野中学から
一人が参加してくれました。

 楢葉中学も広野中学も各々約200人の生徒がいましたが、震災後、
いわき市に作られた仮設の校舎に移りました。仮設の楢葉中学には約6
0人、広野中学には34人が在籍しています。その他の中学生は各地に
分散しました。

 植樹祭に参加したのはいわき市の仮設校舎で学ぶ生徒たちでした。仮
設で学ぶその他の中学生は親御さんたちが放射能を心配して参加を見送
ったそうです。植樹する場所の放射能は十分に低かったのですが、これ
もきちんとした情報が届いていない結果でしょう。

 こうした事例に直面する度、行政、政府は本当に多くのことをスピー
ドアップして行わなければならないと感じます。とりわけ、住民に明確
な情報を届けることが重要です。

 それでも私は楢葉中学と広野中学から5人の生徒が来てくれたことを
とてもうれしく思いました。一緒に植樹をした富澤政輝君とは友達にな
りました。彼の成長を楽しみにしたいと思います。

 桜の木が大きく育ち、東北各県で美しい花を咲かせる日は遠くありま
せん。私たちもひとつひとつよく考えながら、冷静に、勇気をもって被
災地の復興に貢献したいものです。どこに住んでいても、日本人一人一
人が自分の道を雄々しく切り拓いていく国、それを政府が力強く後押し
する国の形を作っていきたいものです。

                           櫻井よしこ


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