元気になるメルマガ

  • 2014.02.02
  • 一般公開

若いママたちへのメッセージ

 過日、長年の友人である春山満さんを大阪に訪ねました。

 春山さんは26歳で筋ジストロフィーにかかり、急速に身体機能を衰えさせていきました。「昨日出来ていたことが今日はもう出来ない。そして機能は二度と戻ることがない。その絶対的な事実に僕は直面したんです」と彼は言います。

 ひとつまたひとつと機能をなくしていく中で、彼は残された機能を100パーセントどころか1000パーセント活かしきって、見事な事業家となりました。福祉の会社を立ち上げ大変な成功をおさめました。社員20数人の小さな会社ですが、大企業のオリックスと対等に組んで日本各地にお年寄りから子供、若い世代までが共に住めるコミュニティを創ってきました。大阪―東京間を年間ざっと百回往復するような本当に忙しい日程を何十年もこなしてきました。

 その春山さんがいま、新たな病と闘っています。以前は車椅子の春山さんが私を訪ねてくれましたが、いまは私が大阪に足を運びます。この日も、私は約2ヵ月振りに春山さんの自宅に向かいました。いつもご家族共々喜んで食べて下さる私の手料理をお持ちするようにしてきました。けれど、今回はその時間がどうしてもとれませんでした。

 訪ねてみると、春山さんは体調は悪くとも精神は旺盛でした。まっすぐ座っていると会話するにも息が切れると言いながら、私の姿を見るやこう言いました。

 「いらっしゃい。早速、一燈照隅塾、やりましょう」

 春山さんがネットで配信する対談番組で、大いに語り合いましょうというのです。この一燈照隅塾は、「若者よ、だまされるな!」というラジオ番組と共に、彼が魂を込めて世の中の若者、そして若い母親や父親に送るメッセージです。


# 日本人の宿題

 春山さんと私は、いま、日本人が本当に大人にならなければならないこと、ただの大人ではなく、日本人が昔から大事にしてきた価値観を身につけた大人にならなければならないことと、とりわけ学び、成長しなければならないのは、若い女性たち、小さな子供さんを持つ若い母親たちであることなどを話し合いました。

 この日、私たちはいつものように、春山邸の広いサロンで番組を収録しましたが、この日の対談内容と重なる内容を、実は、全く別の機会に私は聴くことになりました。

 1月28日、私が理事長を務める国家基本問題研究所が主催する月例研究会でのことでした。月例研究会で「親の責任、国の責任―――日本の教育を取り戻す」という題で、教育の専門家の皆さんと議論したのです。

「親学」の研究で知られる明星大学教授の髙橋史朗氏、ヤンキー先生として知られる参議院議員の義家弘介氏らにまじって、政治ジャーナリストで一児の母の細川珠生さんと、若い母親たちのための子育て支援活動を推進している辻由起子さんの発言が光っていました。


# 子育てか仕事か

 細川さんは日本が高度成長を続けバブルに入る頃に大学を卒業しました。就職活動はまさに売り手市場で級友たちは数社から内定を貰う人がいたといいます。そうした中で、細川さんは就職活動をせずに、フリーの書き手になろうと決意しました。その理由は、結婚して子供を生みたい、子供を育てることと就職を両立させることは難しいだろう、ならば、自分の時間を基本的に自分の考えで使える状態を作っておきたい。そう考えてフリーの物書きになったそうです。

 いま、子供さんは9歳、この9年間は、中々大変だったと言います。かつての日本と異なり3世代家族は少なくなりました。細川さんも夫との暮らしの中で、妻、母、フリーの物書きの3役をこなしました。

「女性は料理から洗濯、夫のサポーター、子育てなど、多くの課題をこなさなければなりません。その中で何が一番しんどかったかといえば、睡眠不足でした。肉体的にもとても疲れる日々の中で、つい苛立ってしまうこともある。子供が大人しく一人で遊んでくれれば楽ですから、子供にゲームを与えそうになってしまう。私は子供にゲームを与えることは間違いだと思っていますから、そうしないように努力しましたが、若い親たちの間には、つい、ゲームを与えて一人遊びさせる母親もいるのではないかと思います」

 ゲームが子供の脳に悪影響を与えることは複数の脳科学の調査からも明らかです。細川さんの発言のポイントは、ママたちが頭の中で、これは子供のためによくないとわかっていても、体力気力が追いつかないためについ「よくない」ことをさせてしまうということです。若いママたちへの周囲の支援が必要だということでもあります。


# 親とは何かがわからない

 こうしたことに加えて、いまの若い母親たちの抱えるもっと深刻な問題について辻さんが話しました。

 辻さんはまず、御自身の経歴を語りました。

 18歳で結婚して一児をもうけ、23歳で離婚しました。夫が暴力団員で、まともな仕事もせずに暴力を振るったことが原因でした。

 子供にまで手をかける夫と、ようやくの思いで離婚しましたが、ひとりになって、子供をまともな人間に育てなければならないと、改めて子供と自分を見詰めたとき、一体子育てとはどういうものか、母親とはどうあるべきものかがわからなかったそうです。

「私の親は、親というものはこうして子を育てるというような姿を私に見せてくれたことがありません。親とは何か、家庭とは何かなどについて、私は全く何も、目標とするようなロール・モデルを知らずに育ちました。だから、愛してると言われたヤクザの夫の言葉をそのまま信じ、結婚しました。暴力を振るわれるようになったときも、結婚や家庭はこういうものだと思いこんでいました。子供が首を絞められそうになり、私も殺されると思ったとき、初めて、逃げ出さなきゃいけないんだと実感したのです」

 そして前述のように、子供を抱えて、これから何をどう考えればよいのか。試行錯誤していたとき、高橋さんの提唱する「親学」に出会ったといいます。

 親学は、人間は学ぶことによって初めて親になれるという前提に立ち、,親として子供をどのように育てればよいのか、自分自身をどのように律していくのがよいのかを教えるものです。人間はただ生まれただけでは母性も親心も育たないということです。母性を身につけるのも、よい母親になるのも、生まれながらの本能ゆえではなく、学ぶことによって身につけることが出来るものだということです。


# 親学で親になる

 辻さんが続けました。

「高橋先生のお話をきいて、本当に目が開かれました。親って、子供にこういうふうに接すればいいんだ。親ってこういう役割を果たすものなんだと。どれも皆、私が知らなかったことです。親学によって、私は初めて親、家庭、教育のロール・モデルを見つけたのです」

 辻さんの語った事は極端な例だと、多くの方が思われるかもしれません。そう尋ねると、彼女は大阪弁でざっと次のように語りました。

「私、いま、多勢の苦しい母親の支援をしているんです。その中で、本当に、目指すべき親の姿などを知っている人、少ないです。10代で妊娠して、出来ちゃったといって結婚して、何年かしたら別れる。一人で育てると決意しても子供とどう接していいかわからない。一所懸命の気持ちはある。愛情も勿論ある。けれど接し方がわからない母親に子供の心がわかるはずがありません。子供にしてみれば、子供のことを何も理解していない大人に扱われるわけですから、これはもう不安以上の何物でもない。結果として、子供は泣いたり、ぐずったりし続ける。言いつけも勿論聞かない。そこから虐待が始まるんです」

 辻さんの言うように、どのようにしたら親になれるのかを知らない人たちが本当に増えていると思わずにいられません。増えているのは虐待だけではありませんね。子供に、生きていくのに必要な最低限の良識やルールを教えることも出来ない親がいます。子供を育てる以前に、その女性自身まず大人としての常識良識を学ばなければならない人が多くなったと思います。


# 伝えたいよき価値観

 春山さんも強調しました。

「よい母親になるという価値観が日本から消えていきそうな感じです。我々日本人は豊かさを得たかわりに、余りにも多くの価値を失ってしまったのではないか。僕は、そう思いますねぇ」

 私も同感します。よき価値観を若い世代に伝えてこなかった日本国の家庭教育、学校教育のあり方が原因だと思います。辻さんが親学によって立ち直ることが出来たように、多くの若い女性たちが親学で学べることは多いはずです。春山さんも私も、そして多くの問題意識を持っている比較的高年齢の世代が、若い女性たちにどのように人生や家庭を築いていったらよいのかについて、たとえ嫌われても具体的に語りきかせていかなければならないゆえんです。


# 春山さんの闘い

 息が苦しい、酸素が足りないという大変な状況にありながら、春山さんは無事に番組を終えました。彼は筋萎縮症にはじまり、新たな病も含めて、自分の体調を第三者の目で観察しています。苦しいのを横に置いて、その苦しさを騙し騙ししながら、残された自分の時間を活用しているのです。苦しさを乗り超えて30分の番組を終えた春山さんの顔は蒼白になっていました。けれど、彼はテレビカメラが止まったとき、ニヤリと笑いました。「やったぜ!」というメッセージです。

 現実を受け入れ現実から逃げないこの意思の強さ。よいことも悪いことも全て引き受ける潔さ。私はこんな春山さんに心からの敬意を払います。

 こんな春山さんだから、若い女性たちに、甘えずにもっとしっかり生きようよと、厳しく、しかし、実際は深い愛を込めて呼びかけることが出来るのです。


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