闘うコラム大全集

  • 2021.06.24
  • 一般公開

ワクチン接種加速で国難克服だ

『週刊新潮』 2021年6月24日号

日本ルネッサンス 第955回


イギリス南西部の町、コーンウォールで開催された先進7か国首脳会議(G7サミット)では、全首脳が東京五輪への「力強い支持」を表明した。菅義偉首相も「主催国の総理大臣として東京大会を何としても成功させなければならない。決意を新たにしました」と決意表明した。


「安全、安心の大会(運営)について説明し、全首脳から大変力強い支持をいただきました」と語ったときの表情はいつもの首相らしく冷静だった。


東京五輪開催への鍵は武漢ウイルスと変異株の拡散を抑えこめるかどうかだ。今のところ、人類が手にしているコロナウイルスと戦う手段はワクチンだけだ。その意味で、ワクチン接種の加速と拡充こそが決め手である。3週間前、本欄で私は赤坂区民センターでのワクチン接種の体験を報告したが、6月13日の日曜日に、2回目の接種を終えた。


3週間前の同センターでの接種と較べて、今回はさまざまな点ではるかに効率がよくなっていた。同センターでの週末の団体接種は3週間前が初日だったために、区側も戸惑う部分が多かったのだろう。しかし、今回は官僚的な四角四面から生まれる無駄が消えていた。経験を積んで合理化され、お揃いの黄色いシャツを着た係員の動きもキビキビしていた。被接種者も前回よりずっと多く、会場全体に活気があった。


前回同様、私は接種時間の30分前に着いた。あのときはすぐ2階の会場に案内されたが、今回は1階のロビーに椅子が配置され、一旦ここで待たされる。それだけ時間当たり、一日当たりの被接種者の数を増やしたのであろう。椅子に座って眺めていると、予約時間ギリギリに小走りで来る人や1時間以上も前に来る人、さまざまだ。


そこに高齢の痩せた男性が杖をついてやってきた。屈強そうな息子さんが付き添っている。杖を頼りに覚束ない足取りのお父さんに、その3倍も体重がありそうな息子さんが「ちゃんと歩きなさい」と言って叱っている(ように聞こえた)。すると黄シャツの係員の男性が駆け寄って「お父さん」を丁寧な態度で介助し椅子に導いた。


「スパルタですね」


また少しすると、高齢の女性がタクシーから降りてきた。右足が不自由で階段を上がるのが大変そうだ。黄シャツの係員が、他の人たちにするのと同じ質問をした。


「ご予約は何時ですか」


彼女は耳を指差し、唇に手をあてて首を横に振った。会話が不自由なことが見てとれる。黄シャツの人は差し出された書類を見て言った。「接種会場は2階です。行きましょうか」。


彼は女性の歩くペースに合わせて、その足の運びを見守りながらそろそろと付き添い、エレベーターに消えた。二人の背中を見ながら、私は「どうか最後まで付き添ってね」と心の中で呟いた。


そして私自身の予約の時間が近づいた。「密を避けて3~4人ずつ、エレベーターに乗って下さい」と注意され、2階の接種会場に行き、再び順番を待つ。整理券など必要な書類の準備を促すお知らせがあって、気がついたらさっきの「お父さん」が私の少し前にいた。


いよいよ接種だ。「お父さん」の番だ。「お父さん」は椅子から立ち上がろうとしたけれど、お尻がストンと落ちて立ち上がれない。と、周りの椅子の人たちがさっと立ち上がって一斉に手を差しのべた。その反応の素早いこと。か弱いお年寄りを守ろうとするそのごく自然な姿に、私は感動した。


そのときだ。「立てるんだから、ちゃんと立って!」と声が飛んだ。息子さんである。「お父さん」はこうして兎にも角にも「シャンと」立って歩き始めた。


私もやがて接種会場の中に導かれたが、前回体験したような「時間のロス」―被接種者が目の前の椅子に並んで座っていて、医師と看護師もブースで待っていて、定められた予約時間のくるまで、お互いに睨めっこしながら待つという何とも奇妙な時間のロス―は今回はなかった。


接種は順調に進んだ。前回同様、医師も看護師も、係の人たちも皆、優しく丁寧で細やかな心配りを欠かさない。2回目のワクチンを打ってもらって、15分間待機していると、あの「お父さん」が15分の観察時間を無事に終えて会場を出ようとするところだった。


その姿を見て思わず、お隣りの女性と顔を見合わせた。彼女とはロビーでも一緒だったのだ。「お父さん」がものすごい早足で歩いていったのだ。屈強な息子さんに背中を押されている。


「凄い早足ですね」「スパルタですね」と、私たちはクックッと笑った。しかし、私は考えずにいられなかった。


小池都知事の姿は


「お父さん」は毎日、どんなふうに暮らしているのかしら、と。「お父さん」の為でもあろうが、叱咤激励する息子さんの前では「お父さん」は気が抜けないのではないか、それにしても男同士の会話はあんなふうに素っ気ないものなのか。しかし、ワクチン接種に付き添ってくれるのだから、息子さんは根は優しい人に違いない。そんなことを考えてぼんやりしていると、後方から弾んだ声が聞こえてきた。


「いやあ、今日は本当に楽しかった。ありがとう!」


振りかえると恰幅のよい男性が周りにいる黄シャツの人たち一人一人にお礼を言っていた。男性も笑顔、黄シャツの皆も笑顔、部屋の中に笑顔が溢れた。皆に優しく丁寧に対応してもらって満足している男性、そのことへの感謝と嬉しさを表現してもらって、これまた幸せな気分になっている黄シャツの人たち。次々に訪れるさまざまな人たち全員にこんなに優しく丁寧に対応できる日本人は本当にすばらしい人たちだ。胸の奥があたたかくなった瞬間である。


菅首相の強い決意もあって、ワクチン接種はようやく順調に進み始めた。6月10日時点で接種回数は2000万回を超えた。あちらこちらの自治体や大学や職場で工夫が重ねられて、独自に接種を進める動きが増えた。1日に100万回の接種が可能として計算すれば10日で1000万回だ。その中には2度目の人も含まれているため、単純には計算できないが、国民の3割にワクチン接種が行き渡れば感染の勢いは目に見えて衰えるという。


「読売新聞」の調査によれば先行接種した医療従事者の感染は9割も減少しているそうだ。専門家らは3月から本格化したワクチン接種の効果だと見ている。


もうひと息だ。できるだけ早く、若い世代にも接種し、皆で力を合わせて東京五輪を無事に迎えたいものだ。それにしても菅首相が前面に出て頑張っているのに、小池百合子都知事の姿は全く見えてこない。小池さん、一体何をしているのかしら。

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