闘うコラム大全集

  • 2021.07.01
  • 一般公開

防衛力強化で首相は有言実行を

『週刊新潮』 2021年7月1日号

日本ルネッサンス 第956回


「防衛費、まさかの日韓逆転」と、日経新聞が6月21日付けで報じた。防衛費でついに日本が韓国に抜かれてしまったのは多くの日本人にとっては衝撃であろう。


だが韓国に抜かれるのは当然だ。なんといっても日本は四方の海に囲まれ、米国に甘え、太平の眠りを貪ってきたのだから。


韓国は人口5000万人、日本の半分以下、GDPは1.6兆ドル余、日本の5兆ドル余の3分の1以下だ。だが、彼らは変わりゆく国際情勢の下で少なくとも努力をしている。日本を見返してやるという闘志もある。


他方、日本は1945年の敗戦以来反省ばかりしてきた。反省漬けで呆けてしまい、日本以外の一切の国、つまり国際社会をほめあげて、その後は考えない。憲法9条も前文も駄文にすぎない。なのに「平和憲法」を口角泡を飛ばして擁護し、改正論を叩く。


この左の人たちを含めて日本全体がいま発想を大転換するときだ。世界の大潮流ががらりと変化しているからだ。菅義偉首相は6月13日、初参加の先進7か国首脳会議(G7サミット)後の記者会見で、「国際秩序をリードしたい」と語った。


バイデン米大統領との首脳会談では世界に向けてこう語った。


「私から、日本の防衛力強化への決意を述べ」、「台湾海峡の平和と安定の重要性について、今回改めて確認しました」「この声明は、今後の日米同盟の羅針盤となる」と。


首脳会談の後、米国の有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)主催のオンラインセミナーの講演では、中国を名指しして、一方的な現状変更の試みを継続中だとし、「私は、主権に関する事項、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値について、譲歩する考えはありません」と断固たる決意をみせた。


そしてこうも明言してみせた。


「日米同盟を更なる高みに引き上げていく。これは私の重要な責務である」


一連の菅首相の決意表明は実に画期的だった。そのとおりに実行すれば、日本は大転換を遂げ、自立したまともな国になる。首相は戦後体制の負の遺産を払拭した大宰相として名を残すだろう。


政治家冥利に尽きる


首相の決意を後押しするのがバイデン氏である。バイデン氏はG7サミットに先立って英国首相ジョンソン氏と会談し、「新大西洋憲章」を発表した。この新大西洋憲章の重要性を戦略論の大家、田久保忠衛氏も指摘した。


80年前の1941年8月、米英両国を代表してフランクリン・ルーズベルト大統領とウィンストン・チャーチル首相が大西洋上で会談し、大西洋憲章を発表した。同憲章は「両国ハ領土的其ノ他ノ増大ヲ求メス」に始まる第1条から、「『ナチ』ノ暴虐ノ最終的破壊ノ後」、米英両国は全ての国の国民に対し、自国内で安全に暮らせるよう平和を確立するとした第6条、「両国ハ一層広汎ニシテ永久的ナル一般的安全保障制度ノ確立ニ至ル迄ハ斯ル国ノ武装解除ハ不可欠ノモノナリト信ス」とした最後の条文まで、8項目にわたる。


必ず武装解除すべき「斯ル国」とは、独伊日だった。日米戦争はまだ始まっていなかったために、「日本」の名前は登場しないが、41年8月時点では、米英両国はアジアの雄であった日本を許容できない敵国と位置づけ、完膚なきまでに叩きのめすと決意していた。


それから80年が過ぎて、米英両国が新たな大西洋憲章を打ち出した。80年前と同じく民主主義の価値観に基づいた公正な世界の実現を目指している。80年前と異なるのは、敵と見做す対象国が日独伊から中国に変わったことだ。80年という長い時間が過ぎて、陣営が入れ変わったのである。


かつての大西洋憲章の精神は第二次世界大戦後の秩序作りの基本となった。国際連合、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、北大西洋条約機構(NATO)などが生まれた。これら国際秩序の基盤となった価値観、それを体現する国際機関を根本から突き崩そうとしているのが中国だ。だからこそ米英は明確に中国をはじめとする権威主義の国々、一党独裁のファシスト国家を自陣営の対立軸としてとらえ、闘おうとしている。


かつて敵として叩きのめされた日本は、今や『米英vs中国』の対立の構図で米英側の主要な味方勢力として位置づけられた。米国にとって比類なく重要な欧州におけるパートナーが『特別な関係』の英国であり、アジアにおけるパートナーが同盟国である日本になったのだ。


この新大西洋憲章の精神の下で、全体主義勢力に対抗して新たな国際秩序作りが始まろうとしている。その中核を担う役が日本と菅首相に回ってきた。この局面で日本のみならず、世界に対して大きな責任を担えることは政治家冥利に尽きるはずだ。


卑怯な精神


日本は地政学上計りしれない重みをもっている。日本の経済力も軍事力も他国が代替できるものではない。日本の強みがここにある。それを日本人自身、とりわけ菅首相がはっきりと認識できれば、強みを日本とアジアの為に活用できる。そのことは、日本を悪と見做してひたすら大人しくし続け、中国のジェノサイドにさえ一言も言えない卑怯な現行憲法の精神から脱却するということでもある。


首相は「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、事実上、台湾の平和と安定を守ると誓約した。日本の防衛力の強化も公約した。だが、台湾もわが国の尖閣諸島も中国の脅威の前で風前の灯だ。防衛費の顕著な増額は国際誓約であると同時に、実は何よりも日本再生のために必要な切実極まる重要事なのだ。


「日本の海軍力はすでに中国との比較で回復不可能なところまで落ち込んだ。いま、根本的大改革を断行しなければ海上自衛隊は10年以内に中国海軍に永久に置き去りにされる」(中国海軍の分析における第一人者、トシ・ヨシハラ氏)。


だからこそ、守勢から攻勢への転換が、直ちに必要なのだ。第一歩として日本でしか通用しない専守防衛の概念を捨て去ることだ。


第二に、中国やロシアが配備した極超音速滑空ミサイルをきっかけに議論が始まった、敵基地攻撃能力の保有を決断することだ。第三に、GDP比でわずか0.9%の日本の防衛費を、菅政権は恒久的にNATO諸国並みの2%に引き上げる努力を始めることだ。ちなみに韓国は2.7%である。


そしてその先に、大目標としての憲法改正をなし遂げるのが菅首相の歴史的使命であろう。


国際社会への首相の誓約を守ること、首相の有言実行が世界への貢献であり、日本の国益である。

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