闘うコラム大全集

  • 2022.03.24
  • 一般公開

命懸けの祖国防衛戦、その尊さを知れ

『週刊新潮』 2022年3月24日号

日本ルネッサンス 第992回


ウクライナを逃れた女性、子供、お年寄りは、3月15日時点で280万人に達した。夫や息子は祖国を守るために残る。妻は子供や年老いた両親を守るため、国外に避難する。涙の惜別の後、彼らが再び会える日がくるのか、誰にも分からない。


他方ウクライナ国内には4000万人以上が残っている。男性だけでなく、女性も子供もお年寄りもだ。海外メディアは祖国に残る彼らの想いを伝え続ける。


「ロシアの侵略に私も抵抗する。死ぬかもしれないが、戦う」(高齢の女性)、「ウクライナ軍がロシア軍の攻撃を受けないように、カモフラージュのための網を作っています。少しでも役に立ちたい」(若い女性)。


大学2年生の男性二人は18歳だ。CNNの取材にこう応じた。


「3日間の軍事訓練で銃の撃ち方など基本を学んだ。人間の本性として、恐怖がないとは言えない。しかし大方の時間、そんなことは考えていない。ロシアに国を奪われることは絶対に阻止する。祖国を守る。僕らに他の選択はない」


激化するロシア軍の無差別攻撃で無辜(むこ)の人々が斃(たお)されていく。日本には、この眼前の悲劇を終わらせることが最重要で、一日も早くプーチンと交渉せよ、妥協せよ、中国に仲介を頼め、ゼレンスキーはこれ以上戦って犠牲を出すな、ミグ29戦闘機をウクライナに渡さない米国やNATO(北大西洋条約機構)は、結局ウクライナを犠牲にして自分たちの安全を守っているのだと認めよ、日本も同罪だ、などの意見がある。これらはおよそ全て無意味な意見だと思う。


はっきりしているのは、戦争を仕掛けられたウクライナのゼレンスキー大統領が諦めずに戦うと決意していることだ。米英両国に首都キエフからの脱出を勧められてもきっぱり拒否した。「もっと武器をくれ」「ウクライナ上空を飛行禁止区域にしてくれ」「さもなければロシア軍はやがてNATOをも攻撃する」と警告し、死を覚悟して戦う姿勢を変えていない。自分が先頭に立ち続け、降伏しない、戦い続けようと国民を鼓舞し続ける。それを国民が圧倒的に支持している。海外在住のウクライナ人男性たちも防衛戦のため祖国に戻っている。


プーチン敗北後の世界


私たちは何よりもこのウクライナの決断を尊重すべきである。プーチンのロシアに祖国を奪われたくないというウクライナ人の命懸けの尊い決断を、第三国の私たちが否定するのは控えるべきだ。命を捧げて国を守ることの尊さを忘れた主張はウクライナを背後から打つに等しい。


ウクライナ人が死を回避し生きのびることを望むのなら、プーチンの要求を容れ、降伏し、ロシアの属国になるのが近道だ。しかし彼らは断固として拒否している。ウクライナにとどまり、ロシア軍の爆撃を受けても退かない。命を落としてもやめない。撃ち返し続けている。


こうした彼らの姿が世界を動かしている。世界の人々、国々が反プーチンで一致し、行動を起こしている。ウクライナ政府と国民の尊い犠牲がウクライナを救う力となっているのである。その犠牲を気の毒だと感情的、表層的にとらえるのは、はっきり言って間違いだ。祖国に命を捧げる行為を、敬意をもって受けとめるのが正しいのではないか。


14日になって、プーチンが真剣に交渉する気になっていると、米国務副長官のシャーマン氏が語った。米国はまた、プーチンが中国の習近平国家主席にウクライナ侵略開始当初から軍事的、経済的援助を要請していたとの情報を発表した。プーチンとの交渉の展望はまだまだ見通せない。しかし、ここまでプーチンを追い込んだ第一の要因は、間違いなくウクライナ人の果敢な戦い振りだ。


中国に仲介を頼めとは中国の実態を見ない主張であろう。開戦前、米国は中国側に、ロシアに無謀な戦争を思いとどまらせるよう、12回にわたって働きかけを頼んだ。「ニューヨーク・タイムズ」紙は、米国側は中国側に「懇願した」と報じた。それでも中国側はその全てを退け、逆に米国は緊張を高める「犯罪者」(culprit)だと公式に非難した。


いま、国際社会が警戒しているのは、日米欧の対露制裁に一貫して反対してきた中国が、プーチンへの軍事的、経済的支援を、いかなる形でか実施することだ。そんな中国に仲介を頼めとは中国の実態を知らないのではないか。


ウクライナ侵略戦争の真っ只中で、日本は冷静に考えよう。プーチン敗北後にどんな世界が出現するか。たとえば中露関係だ。政治的に終わったプーチンが、習氏にとってどれだけの価値を持ち続けるかは疑問だが、力を失ったロシアは中国にとって重要な資源供給国になるだろう。世界最大級の資源保有国でありながら産業らしい産業が育っていないのがロシアだ。そのロシアを、ウイグルやチベットから貴重な資源を奪い続けているように、中国は資源供給のジュニアパートナーとしたいのではないか。それは中国がユーラシア大陸の支配を強めるということだ。この地政学的な大展開こそ日米欧にとって最大の脅威となる。


最悪に備える準備を


習近平の中国は、次の局面では間違いなくこれまで見てきたいかなる国よりも手強い、最大の脅威になると考えておくべきだ。武漢ウイルスもウクライナ侵略も全て中華民族の復興に利用して世界制覇を目論む中国共産党の、第一の標的は台湾であり、日本だ。ウクライナ問題は感情でとらえてはならない。大きな枠組みで国家としての視点で見るべきだ。


侵略されているウクライナを最大限支援するのは当然だが、そこにとどまってはならないということだ。次は日本の番だ。その自覚に基づいて日本国を守り抜くためにすべきことを探りあてなければならない。最悪に備える準備を急ぐことだ。


たしかに中国は非常に手強いが、私たちが意気消沈する必要はない。彼らには深刻な問題がいくつもある。徹底した監視システムでいつまで国民をコントロールできるのか。経済力と軍事力でいつまで世界諸国を恫喝できるのか。西側の私たちには一人一人の人間の自由意志、自発的行為の強みがある。ウクライナはそうした力を今回、SNS経由で大いに活用した。人間弾圧を基盤にする中国に、私たちは人間の自由で立ち向かえる。世界諸国が団結して戦える。


世界情勢を広い視野でとらえ、事実を基盤に考えよう。タブーをなくし、考えたくないことに敢えて思考回路を開こう。国防に当てはめれば、日本を守るには自衛隊だけに役割を任せておいては不十分だ。日本人全員の日本を守る決意がなければ、中国の脅威から日本を守ることなどできない。精神、軍事、経済、法律、全ての面からわが国の国防体制の強化こそ大事だと気づきたい。

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