闘うコラム大全集

  • 2022.08.25
  • 一般公開

安倍総理と統一教会、報道への違和感

『週刊新潮』 2022年8月25日号

日本ルネッサンス 第1012回


凶弾に斃れた安倍晋三元総理と統一教会について、わが国における大方のメディアの報道には受け入れ難い焦点ずらしがある。テレビ局も新聞社もおしなべて安倍氏と統一教会の関係が疾しいものであるかのように報じている。有権者は報道に影響され、岸田政権に疑惑の眼を向け、内閣支持率は急落した。統一教会の影の払拭が、岸田文雄首相が内閣改造に踏み切った最大の理由だとされている。


斯(か)くして新内閣が発足したが、「読売新聞」と「日本経済新聞」の世論調査で意外な結果が出た。通常、内閣改造は5ポイント程支持率を押し上げる効果があるといわれるが、今回は逆に下がった。統一教会の疑惑払拭が不十分と見られたのが原因だと紙上では分析された。


そこで感じる疑問は、安倍氏及び自民党は、メディアが非難するような「ズブズブの関係」を本当に統一教会と築いていたのかという点だ。事実関係を辿ればむしろ真実は正反対だ。


安倍政権は2018年、消費者契約法を改正した。消費者が「霊感商法」のような詐欺商法にひっかかって多額のお金を奪われたとき、お金を取り戻せるようにする改正だった。


安倍内閣の下、同年5月23日、衆議院本会議で永岡桂子自民党議員が立憲民主党、国民民主党、公明党、無所属の会、日本共産党及び日本維新の会の七派を代表して修正案を提出した。同修正案で霊感商法の被害者救済の道が開かれた。安倍氏が統一教会と親密な関係にあるとしたら、右の法改正はなかっただろう。


このように、安倍政権が統一教会の霊感商法取り締まりを厳しくしたことをメディアは殆ど報じない。逆に統一教会と安倍氏・自民党の関係を意図的に強調し、安倍氏を貶める報道が目立つ。その一例、8月3日の朝日新聞社説はこう書いた。


「国民の暮らしを守るべき政治家が、霊感商法や高額な献金が社会問題となっている教団の活動に、お墨付きを与えるようなことはあってはならない。岸信介元首相以来の付き合いといわれ、歴代の党幹部や派閥のトップが関わりを持ってきた自民党の責任はとりわけ重い」


一番の被害者


岸氏が統一教会系の政治団体である国際勝共連合と関わりを持った時代背景について一言の記述もないのはなぜだろうか。当時、韓国の朴正煕大統領、台湾の蒋介石総統、日本は現職総理の佐藤栄作氏らが勝共連合の会合にメッセージを送っていた。その中に元首相の岸氏もいた。大東亜戦争が終わり、朝鮮戦争で南北朝鮮は厳しいイデオロギーの対立期に入った。米ソは冷戦に入り、キューバ危機、ベトナム戦争、中華人民共和国の国連加盟があり、台湾の中華民国は国連から追い出された。自由主義陣営は拡大する共産主義陣営とせめぎ合っていた。勝共連合と岸氏らの関係はその時代のことだ。


7月22日の「言論テレビ」で、作家でジャーナリストの門田隆将氏が語った。


「1970年5月、国際勝共連合の国民大会が立正佼成会の普門館で行われました。立正佼成会も宗教団体ですが、勝共連合は宗教団体ということではなくて同じ価値観を有する組織と位置づけられています。そこに現職の大蔵大臣、福田赳夫氏が祝辞を送っています。『わが国にも目に見えない38度線がある。自由に行動し、自由に表現し、自由に思考し、自由に経済活動をしている。この自由な社会をひっくり返して、マルキシズムの名の下に少数の組織、統制の組織に作り替えようとする勢力が存在する。だから皆さん、この共産主義と資本主義陣営の戦いに負けてはなりません』と、現職の大蔵大臣が送ったのです」


このような全体像を示すことなく、岸氏と安倍氏のみを切り取って報じるのはフェアではない。


統一教会が資金集めのために霊感商法を展開するのはそれより後のことだ。統一教会はほとんど価値のない壺を数百万円で信者に買わせるなど、詐欺商法で多くの被害者を出した。そのことは絶対に許してはならない。だからこそ前述のように安倍政権は消費者を守るために消費者契約法を改正したのではないか。


安倍首相殺害犯、山上徹也は約20年前に母親が億単位のカネを統一教会に貢いで家族が悲惨な運命を辿ることになったと恨んでいるという。統一教会も悪いが、かといって山上が安倍氏を殺害する理由はどこにもない。メディアは本来、憎むべき殺人を犯した山上の罪を追及しなければならない。それが統一教会追及に焦点が移ってしまっている。結果として一番の被害者である安倍氏の名誉が不当に傷つけられている。本末転倒の報道ではないか。これこそ、本当におかしいではないか。


岸田氏は内閣改造で統一教会の疑惑払拭に注視したが、本来ならもっと深く政治と宗教の関係に切り込むべきだ。国会に特別委員会を設置してメスを入れるべき重要なテーマであろう。


創価学会と公明党


かつて共産主義と戦う勢力だった統一教会が、霊感商法や「合同結婚式」などカルト活動に集中した。では今、彼らのカルト的体質はどうなっているのか。安倍政権による消費者契約法改正でどこまで被害者を救出できるようになったのかなど、調べるべきことも打つべき対処も多いはずだ。


政治と宗教の関係を問うなら、創価学会と公明党についても考えるべきだろう。閣僚らがメッセージを送り、宗教団体がそれを利用して勢力を拡大し見返りに選挙活動等を手伝い、票もくれるという関係は、創価学会と公明党にも当てはまるのではないか。


日本キリスト神学院院長の中川晴久氏の指摘に耳を傾けたい。氏は教会で出会った23歳の女性のことがきっかけで統一教会の研究を始めたという。氏は、統一教会は国際社会から合同結婚式などで異端視されてはいるが、悪事を働くのは日本においてのみだと指摘する。統一教会が根本的に反日思想で動いているからだというのだ。


統一教会の『原理講論』では「日本はエバ国家(母の国)の使命を担って」おり、世界の母親としてたとえ自らは飢えたとしても世界の国々を保護し、経済的援助をして育てていく運命だとされているそうだ。


他方、韓国・北朝鮮はアダム国家(父の国)で、日本は朝鮮半島の南北統一のために生きなければならないとされているという。これは韓国に対する歴史的な罪滅ぼしのために日本はお金を文鮮明に貢ぎ、韓国に仕え、軍事力を持ちサタン(悪魔)の共産主義国と戦えと求めているものだと、中川氏は解説する。だから、統一教会はスパイ防止法にも憲法9条の改正にも賛成だが、それは全て韓国・北朝鮮のためでしかないともいう。


政治と宗教の問題は全体像をおさえた報道が必要だ。同時に山上の犯罪は本当に単独犯だったのか。安倍氏殺害事件の真実こそ、知りたい。

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