- 2021.09.09
- 一般公開
薬害エイズを怠慢の口実にする厚労省
『週刊新潮』 2021年9月9日号日本ルネッサンス 第965回気になることを二度続けて聞いた。中国の武漢から始まったコロナウイルスと変異株に国際社会全体が翻弄されている中、厚生労働省が日本製のワクチンや治療薬の承認に消極的なのは、薬害エイズで酷く非難された苦い記憶ゆえだというのである。一度目は有力政治家から、二度目は8月25日、BSフジの「プライムニュース」で、外交評論家の宮家邦彦氏から聞いた。このような情報流布の背景に厚労省の「進講」があるのではないかと、私は感じたが、そう的外れではないだろう。コロナウイルスで国全体がこれ程の被害に遭っているいまは、平時ではなく有事である。ウイルスという目に見えない敵と戦うには、ワクチンの開発にしても薬の承認にしても通常のプロセスをうんと簡略化してスピード感をもって当たらなければならない。にも拘わらず、日本製ワクチンやアビガンのような治療薬の治験も承認も遅々として進まない。後述するように厚労省、とりわけ薬系技官が頑としてプロセスを早めることを拒否しているのが原因である。医薬品業界の既得権益と利害をかけた熾烈な争いもその背景にあるに違いない。だがそうした汚い側面を隠すかのように、一連の遅れの原因は薬害エイズで批判された深い傷の痛みだという的外れな情報が流されているのである。...